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INNOVATORS
公開 2023.10.26

入念な準備と地道な生活の積み重ねが生み出した「信頼」と「実績」
俳優・司会者 谷原章介氏 インタビュー(中編)

谷原 章介 氏インタビュー中編

俳優として活動を続けていく中で新しい領域へと挑戦を進めていく。しかし、芸能界は競争が激しい。「やりたい」と手を挙げたところで新たに椅子を用意してもらえるわけではない。男性モデルとしてキャリアをスタートさせた谷原章介氏が、俳優、タレント、司会者として羽ばたくことができた理由はどこにあるのか? 周囲からの信頼を集め、新たな挑戦をする権利を得るために谷原氏はどのように日々を過ごしているのか、話を聞いた。

取材・文/山口和史 Kazushi Yamaguchi 写真/斎藤大嗣 Daishi Saito

日々の生活の積み重ねとその日のための入念な準備

- 俳優として忙しい毎日を送る日々。そんななか、バラエティ番組へのオファーが来た。

谷原氏 : 事務所から『バラエティ番組にも挑戦してみたら?』といったアドバイスはもらっていたんです。でも、お笑い芸人さんみたいにお話しをうまくできる自信もないし、皆さんを面白おかしく盛り上げる自信もない。台本に書かれたことを覚えて話すのが精一杯でした。

- 恐る恐る挑戦してみた。試行錯誤を繰り返した結果、自分なりのやり方を見つけることもできた。スマートなルックスと柔らかい声。温かくユーモラスな人柄が視聴者に受けた。その手応えに呼応するように、バラエティ番組へのオファーが増えてきた。

谷原氏 : やがて司会はどうなんだろう、やるならどういう方向の司会が良いんだろうと、自分の中で次はどの世界に進もうか考えるようになりました。

この仕事ってあと何年くらいしか続かないよな、最大で続いてもあと2年だろう、終わったあとの準備をいまからどうしていこうかみたいなことを考えていました。

- 転機が訪れたのは2007年のこと。TBS「王様のブランチ」の2代目司会に就任した。同番組は1996年から現在まで続いている土曜日の人気番組。実力派俳優としてキャリアを歩んでいた谷原氏にとって大きなチャレンジになった。
谷原氏はおよそ10年にわたって司会を務め、「俳優」以外に「司会者」としてのキャリアも歩んでいくことになった。顔とスタイルだけが武器の男性誌モデルが、才能とキャラクターを活かした俳優・司会者へとステップアップを果たした瞬間だった。
とはいえ、芸能界の仕事は本人が「やりたい」と言ったから「はいどうぞ」と渡されるものではない。仕事を信頼して任せてもらえるようになるまで、地道な日々の積み重ねがそこにはある。

谷原氏 : 周りの方への接し方だったり、普段のちょっとした発言といった細かいことが目に見えない信頼に繋がっていくと思うんです。

ある元政治家の方が印象深い話をされていました。公職にいる間は、たとえ夜中にひとりで歩いていても、どんな小さな交差点の信号でも信号無視はできなかったって言うんです。どこで誰がどんな目で見ているか分からないからできなかったって。このエピソードは、今の社会の息苦しさを象徴しているとも思いますし、同時に公職にあることの責任の重さを表してもいると思うんです。そういうことをきちんとご自身で律しているからこその信用だと思うんですよ。

これは常に試され続けて、周囲から監視され続けている中で、モデルのときも役者のときも司会業にしてもずっと意識して積み重ねてきたから、もしおっしゃっていただけるのなら、多少は信用のようなものがあるのかもしれません。

同時に次の仕事への準備のような、自分の中で積み重ねを続けていたからこそ、その仕事のオファーをしていただいて、仕事をし始めた時に『ああ、こいつダメだったな』と思われずに済む、それが次の仕事につながるんだと思うんです。

- 現在では、クイズ番組、音楽番組、歴史番組、スポーツ番組、SDGsをテーマにした番組などありとあらゆるジャンルの司会をこなしている。
順風のうちに行っておく入念な準備と日々の生活の積み重ねが生んだ信頼が新たな仕事を呼び込み、その仕事で出したたしかな成果がまた新たな信頼を生む。そんな循環を作り出している。
やがて、司会者としてのひとつの到達点とも言えるオファーが舞い込んできた。月曜日から金曜日まで、毎日放送される帯番組フジテレビ「めざまし8」のメインキャスターだ。

谷原氏 : さまざまな番組の司会をやってきた中で、いつか帯番組のお話しが来るかもしれない。これはある意味で司会業としてひとつのゴールに近いと思うんです。

そのオファーをいただくためには、自分の中で見識を深めなければいけない。もちろんまだまだ足りていないので時に失言もあったりしますけれども、さまざまなネットのニュース、新聞も含めて自分なりに経済、政治、産業、色々な分野のニュースを自分なりに掘り下げるようにしていました。

ですから、いま『めざまし8』のメインキャスターをさせていただく際に多少なりとも底上げと言いますか地力みたいなものがあったので、お話しをいただけたんだと思っています。もちろん、コメンテーターの皆さん、プレゼンターの皆さんのお力があり、教えていただいたり示唆していただいたりしながら続けさせてもらっています。

- モデル、俳優としてキャリアを積み重ねる中で、リスクマネジメントも慎重に行ってきた。特にイケメンで爽やか、柔和で好感度が魅力の谷原氏にとって、スキャンダルは絶対的なタブー。ひとつのミスですべてを失うことにもなりかねなかった。
 
谷原氏 : なにか大きな役割に就任した直後に、過去のスキャンダルが報道されてあえなく降板するということがありますよね。

となると、日々の生活を気をつけたり意識するのは就任する時点ではなくて、そこに至るまでのずっと前の時点から注意して積み重ねていかないと、大きな仕事を任されて注目を集めた時に、過去のいろいろな言動や行動が報道されて騒動に発展してしまうと僕は思っています。そこから気をつけてもダメなんです。日頃が大事なんです。

<後編に続きます>

<前編に続きます>

Profile

谷原 章介 氏

1972年、神奈川県横浜市生まれ。1992年『メンズノンノ』の専属モデルに。1995年に映画「花より男子」で俳優デビュー。以後、二枚目役からユーモラスな役まで幅広く、映画、ドラマ、舞台で活躍する。2000年代からはバラエティ番組にも挑戦。その柔和で庶民的な人柄が人気を博し、やがて司会業にも挑戦。「王様のブランチ」、「パネルクイズ アタック25」など数多くの番組でMCを務める。2021年からは朝の情報番組「めざまし8」の総合司会に就任。